して1字下げ]
(十右衛門はそこらを見まわしながらやはりもじもじしている。半七は何を云いに来たのかと、相手の顔をながめている。)
[#ここで字下げ終わり]
十右衛 よいお天気がつづきまして、まことに仕合せでございます。
半七 ことしは余寒が強くないので大きに楽でございました。もう直きに彼岸が来る。雛市がはじまる。世間もだんだん陽気になって来ましょう。
十右衛 左様でございます。空の色などももうめっきりと春めいて参りました。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
(十右衛門はいつまでももじもじしているので、半七は少し焦れったくなって、煙管《きせる》で火鉢の縁《ふち》をぽんぽん叩く。十右衛門はその音にびっくりしたように半七の顔を見る。)
[#ここで字下げ終わり]
半七 そこで、早速ですが、どんな御用でございますね。
十右衛 いや、どうもお忙がしいところへお邪魔に出まして、なんとも申訳がございません。
半七 そんな御挨拶には及びませんから、肝腎の御用を早く仰しゃって下さい。
十右衛 はい、はい。どうも恐れ入りましてございます。
半七 (じれる。)どうもいけねえな。もし、旦那。なんにも
前へ
次へ
全64ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング