跡方のねえことでもねえらしいね。兎も角ももう少し手繰ってみちゃあどうです。
半七 むむ。
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(半七はやはり考えている。向うより大和屋十右衛門、四十五六歳、相当の町家の主人の風俗にて出で来たり、内をうかがいて丁寧に案内する。)
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十右衛 御免ください。
亀吉 あい、あい。(出る。)どなたですえ。
十右衛 三河町の半七親分のお宅はこちらでございましょうか。
亀吉 そうですよ。どこからお出でなすった。
十右衛 わたくしは芝の露月|町《ちょう》で金物渡世をいたして居ります大和屋十右衛門と申す者で、親分さんにお目にかかりまして、少々おねがい申したいことがございますが、お宅においででございましょうか。
亀吉 ちょいと待っておくんなさい。(引っ返して来る。)親分。
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(半七は黙って考えている。)
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亀吉 おい、親分。ぼんやりしていちゃあいけねえ。お客ですよ。
半七 (気がついて振向く。)そうぞうしいな。誰が来た。
亀吉 露月町の金物屋で大和屋十右衛門という人だそうで
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