駄々をこねちゃあいけねえ。人間ひとりにお縄をかけるというのは重いことだ。
文字清 人間ひとりを殺したのは軽いことですか。さあ、すぐに行ってください。(起ちあがる。)
半七 どうも困るな。(奥に向いて。)おい、おい、おくめ。ちょっと来てくれ。
おくめ はい、はい。(奥よりいず。)もう御用は済んだのですか。
半七 この師匠が無理を云って、おれを困らせていけねえ。なんとかなだめて連れて行ってくれ。
文字清 わたしが無理をいうのじゃあない。親分さんがわたしの云うことを本当にしてくれないんですよ。わたしは口惜しくって、口惜しくって……。(取り乱して泣き伏す。)
おくめ 兄さん、どうしたもんでしょうねえ。
半七 どうすると云って、だまして連れていくよりほかはねえ。師匠はよっぽど取りのぼせているのだ。(文字清に。)おい、師匠。幾度云っても同じことだ。わたしがきっと受合って、おまえの息子のかたきを取ってやるから、その積りでおとなしく帰るがいいぜ。
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(半七はおくめに眼くばせして、早く連れてゆけと云う。)
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おくめ じゃあ、お師匠《しょ
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