ませんか。まして角太郎は旦那の隠し子ですもの、腹の底には女のやきもちもきっとまじっていましょう。そんなことを色々かんがえると、おかみさんが自分でしたか人にやらせたか知りませんけれど、楽屋のごたごたしている隙をみて本物の刀とすり換えて置いたに相違ないと、わたくしが疑ぐるのが無理でしょうか。
半七 むむ。
文字清 (いよいよ興奮して。)それはわたくしの邪推でしょうか。親分、おまえさんは何とお思いです。(詰めよる。)
半七 (しずかに。)それだけの話を聴いたところじゃあ、お前さんがそう思い詰めるのも無理じゃあねえが……。
文字清 無理どころか、まったくそれに相違ないんです。わたくしは口惜しくって、口惜しくって……。いっそ出刃庖丁でも持って和泉屋の店へあばれ込んで、あん畜生をずたずたに斬り殺してやろうかとも思っているんですが……。
半七 (なだめるように。)まあ、まあ、そんな短気は出さねえ方がいい。お前さんはそう一|途《ず》に決めていても、世の中の事というものは白紙《しらかみ》へ一文字を引いたように、無造作にわかるものじゃあねえ。ともかくも悪いようにはしねえから、この一件はわたしに任せて置きな
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