さかに大家のおかみさんがそんな事を……。ねえ、兄さん。
半七 まあ、横合いから口を出すな。これは大切な御用の話だ。これからは師匠と膝組みで話をしなければならねえ。おまえもちっとのあいだ奥へ行っていろ。
おくめ はい。(文字清に。)じゃあ、おまえさんも御ゆっくりとお話しなさい。
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(おくめは奥に入る。)
[#ここで字下げ終わり]
半七 おい、師匠。もっとこっちへ来てくんねえ。和泉屋のおかみさんが若旦那を殺したというには何か確かな証拠でもあるのかえ。若旦那を殺すほどならば、初めから自分の方へ引取りもしめえと思うが……。
文字清 角太郎が和泉屋へ貰われてから四年目に今のおかみさんの腹に女の子が出来ました。おてるといって今年十六になります。ねえ、親分。おかみさんの料簡になったら、角太郎が可愛いでしょうか、自分の生みの娘が可愛いでしょうか。角太郎に家督をゆずりたいでしょうか、おてるに相続させたいでしょうか。(だんだんに興奮して。)ふだんはいくら好い顔をしていても、人間の心は鬼です。邪魔になる角太郎をどうして亡き者にしようかぐらいの事は考え付こうじゃあり
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