親分さん。どうぞ仇を取ってください。
半七 仇……。だれの仇を取るんだね。
文字清 わたくしの倅のかたきを……。
半七 え。(相手の顔をじっと見る。)少しわからねえな。
文字清 (物狂わしく。)わたくしはもう口惜しくって……口惜しくって……。(泣く。)
おくめ まあ、そう泣かないで、よくその訳をお話しなさいよ。
半七 唯むやみに泣いていちゃあ仕様がねえ。おまえさんの息子が一体どうしたというのだ。まあ、落ちついてはっきり云って聞かせねえ。
文字清 はい。(やはり身をふるわせて泣いている。)
半七 おい、おくめ。おまえがこの師匠を連れて来たんだから、一と通りのことは知っているだろう。師匠の息子がどんなことになったのだ。
おくめ 実はね、今云った和泉屋の若旦那はこのお師匠さんの息子さんですとさ。
半七 なに、和泉屋の若旦那はこの師匠の息子だと……。そりゃあおれも初耳だ。じゃあ、あの若旦那は今のおかみさんの子じゃあねえのか。
おくめ そうですとさ。
半七 ふむう。そうかえ。(かんがえている。)
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(亀吉は盆に茶碗を乗せて出で、おくめと文字清の前に置く
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