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亀吉 番茶でございますよ。
半七 話が少し入り組んで来たようだ。おめえは奥へ行っていろ。
亀吉 あい、あい。(奥に入る。)
半七 おい、師匠。文字清さん。和泉屋の息子の角太郎というのは、ほんとうにお前さんの子供かえ。
文字清 (顔をあげる。)はい。角太郎はわたくしの実の倅でございます。こう申したばかりではお判りになりますまいが、今から丁度二十年前のことでございます。わたくしが仲橋《なかばし》の近所でやはり常磐津の師匠をいたして居りますと、和泉屋の大旦那がまだ若い時分で時々遊びに来まして、自然にまあその世話になって居りますうちに、わたくしはその翌年に男の子を生みました。それが今度なくなりました角太郎で……。
半七 じゃあ、その男の子を和泉屋の方で引取ったんだね。
文字清 そうでございます。和泉屋のおかみさんがその事を聞きまして、丁度こっちに子供がないから引取って自分の子にしたいと……。わたくしは手放すのはいやでしたけれど……。(又泣く。)向うへ引取られれば立派な店の跡取りにもなれる、つまりは本人の出世にもなることだと思いまして、生まれると間もなく和泉屋の方
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