入口の格子がある。
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(第一幕より六日目の朝。子分の亀吉が表を掃いている。向うより半七の妹おくめが先に立っていず。おくめは神田の明神下に住む常磐津の師匠で、文字房という若い女。おくめのあとより三十七八歳の女が附いて来る。これはおなじ師匠で、下谷に住む文字清という女、色は蒼ざめ、眼は血走って、よほど取り乱したていである。)
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おくめ 亀さん、お早う。
亀吉 やあ、明神下のお師匠《しょ》さん。早いね。
おくめ かせぎ人は違うのさ。(笑う。)
亀吉 まったくだ。まあ、おはいんなせえ。(云いながら文字清をじろじろ見る。)
おくめ 兄《にい》さんは家《うち》にいるの。
亀吉 おかみさんは朝まいりに出かけたが、親分はいますよ。なに、もうとうに飯を食って、顔を洗って起きているのさ。
おくめ おまえさんの云うことは逆《さか》さまだねえ。まあ、なにしろ御免なさいよ。
亀吉 さあ、さあ、通んなせえ。(格子の内に入りて呼ぶ。)おい、おい、親分。明神下のお師匠さんが来ましたぜ。
おくめ (文字清をみかえる。)さあ、
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