そうですが……。(倒れている角太郎を見て駈けよる。)もし、若旦那。どうなすったんですよ。(泣き声になって呼ぶ。)もし、若旦那……若旦那……。
与兵衛 これ、これ、親分さんもいらっしゃる。まあ、静かにしろ、静かにしろ。
お冬 でも、若旦那がこんなになって……。
おさき まあ、まあ、あとで判ることだよ。
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(おさきは眼で制する。お冬は泣いている。)
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半七 時にお医者はまだ来ませんかね。
長次郎 すぐに来るということでしたが、なにをしているのかな。
おさき おまえの云いようが悪いのじゃあないか。
長次郎 いいえ。若旦那が大怪我をしたから、すぐに来てくれろとよく云ったのでございます。
与兵衛 (じれる。)なにしろ遅いな。庄八、ここには構わずに早く行って来い。
庄八 はい、はい。
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(庄八が起とうとする時、下のかたよりばたばたと足音して、大勢の見物客が男女入りまじって、どやどやと入り来たる。)
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男甲 若旦那が怪我をしたというじゃありませんか。
大勢 (口々に
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