持っていて、道具屋といっても主《おも》に鎧《よろい》兜や刀剣、槍、弓の武具を取扱っているので、邦原家へも出入りをしている。年は四十前後で、頗るのんきな面白い男であるので、さのみ近しく出入りをするという程でもないが、屋敷内の人々によく識られているので、今夜彼があわただしく駈け込んで来たについて、人々もおどろいて騒いだ。
「金兵衛。どうした。」
「やられました。」と、金兵衛は倒れたままで唸《うな》った。「あたまの天辺から割られました。」
「喧嘩か、辻斬りか。」と、ひとりの中間が訊《き》いた。
「辻斬りです、辻斬りです。もういけません。水をください。」と、金兵衛はまた唸った。
 水をのませて介抱して、だんだん検《あらた》めてみると、彼は今にも死にそうなことを言っているが、その頭は勿論、からだの内にも別に疵《きず》らしい跡は見いだされなかった。どこからも血などの流れている様子はなかった。
「おい、金兵衛。しっかりしろ。おまえは狐にでも化かされたのじゃあねえか。」と、中間らは笑い出した。
「いいえ、斬られました。確かに切られたんです。」と、金兵衛は自分の頭をおさえながら言った。「兜の天辺から梨子
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