踏ませて遣《や》る方がいゝよ。」と、要次郎は励ますやうに云つた。
 子供の群は十人ばかりが一組になつて横町《よこちよう》から出て来た。かれらは声をそろへて唄ひながら二人のそばへ近寄つたが、要次郎は片手でおせきの右の手をしつかりと握りながら、わざと平気で歩いてゐると、その影を踏まうとして近寄つたらしい子供|等《ら》は、なにを見たのか、急にわつと云つて一度に逃げ散つた。
「お化けだ、お化けだ。」
 かれらは口々に叫びながら逃げた。影を踏まうとして近寄つても、こつちが平気でゐるらしいので、更にそんなことを云つて嚇《おど》したのであらうと思ひながら、要次郎は自分のうしろを見かへると、今までは南に向つて歩いてゐたので一向に気が付かなかつたが、斜めにうしろの地面に落ちてゐる二つの影――その一つは確かに自分の影であつたが、他の一つは骸骨《がいこつ》の影であつたので、要次郎もあつと驚いた。行者《ぎようじや》を狐《きつね》つかひなどと罵《ののし》つてゐながらも、今やその影を実地に見せられて、かれは俄《にわか》に云ひ知れない恐怖に襲はれた。子供等がお化けだと叫んだのも嘘ではなかつた。
 要次郎は不意の恐れ
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