ば、それは悪いことに相違ない。善《い》いことであれば隠す筈《はず》がないとは、誰でも考へられることである。二人の女は暗い顔をみあはせて、しばらく往来|中《なか》に突つ立つてゐると、その頭の上の青空には白い雲が高く流れてゐた。
お由はやがて泣き出した。
「おせきは死ぬのでせうか。」
伯母もなんと答へていゝか判らなかつた。かれも内心には十二分の恐れをいだきながら、兎《と》も角《かく》も間にあはせの気休めを云つて置くの外《ほか》はなかつた。
伯母は家《うち》へ帰つてその話をすると、要次郎はまた怒つた。
「近江屋の叔父《おじ》さんや叔母《おば》さんにも困るな。いつまで狐《きつね》つかひの行者なんかを信仰してゐるのだらう。そんなことをして此方《こつち》をさん/″\嚇《おど》かして置いて、お仕舞《しまい》に高い祈祷《きとう》料をせしめようとする魂胆《こんたん》に相違ないのだ。そのくらゐの事が判らないのかな。」
「そんなことを云つても、論より証拠で、丁度《ちようど》百日目の晩に怪しい影が映つたといふぢやないか。」と、兄は云つた。
「それは行者が狐を使ふのだ。」
又もや兄弟|喧嘩《げんか》がは
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