鰻に呪われた男
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)痩形《やせがた》で

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二|尾《ひき》ほど

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぞっ[#「ぞっ」に傍点]としました。
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     一

「わたくしはこの温泉へ三十七年つづけて参ります。いろいろの都合で宿は二度ほど換えましたが、ともかくも毎年かならず一度はまいります。この宿へは震災前から十四年ほど続けて来ております。」
 痩形《やせがた》で上品な田宮夫人はつつましやかに話し出した。田宮夫人がこの温泉宿の長い馴染客であることは、私もかねて知っていた。実は夫人の甥にあたる某大学生が日頃わたしの家へ出入りしている関係上、Uの温泉場では××屋という宿が閑静《かんせい》で、客あつかいも親切であるということを聞かされて、私も不図《ふと》ここへ来る気になったのである。
 来て見ると、私からは別に頼んだわけでもなかったが、その学生から前もって私の来ることを通知してあったとみえて、××屋では初対面のわたしを案外に丁寧に取扱って、奥まった二
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