怪談劇
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)三月《みつき》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)真景|累《かさね》ヶ|淵《ふち》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き](昭和三十一年二月、青蛙房刊『綺堂劇談』所収「甲字楼夜話」より)
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 江戸時代の怪談劇は、大抵六、七、八の三月《みつき》のあいだを択んで上場されたようである。つまり夏狂言とか盆替りとか云う場合に、怪談物を選択したらしい。暑い時節に怪談をみせて、夏なお寒きを覚えしめるという趣向かも知れない。
 勿論、怪談の狂言に時代物もあるが、怪談として凄味の多いのは世話物である。その意味から云って、世話物は舞台の装置も人物の扮装もアッサリしていて暑苦しくない。それがまず第一に夏向きである。第二には、暑中の観客はとかくに茹《うだ》り易い。その茹り気分を強く刺戟するには怪談などがお誂え向きである。それらの事情から、自然に怪談が択《えら》まれる事になったのであろうと思われる。
 南北は怪談作者のように云われ、私もそう思っていたのであるが、かの大南北
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