怪獣
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)暢《のび》やかな

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)名物|柿羊羹《かきようかん》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)愛矯[#「愛矯」はママ]
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     一

「やあ、あなたも……。」と、藤木博士。
「やあ、あなたも……。」と、私。
 これは脚本風に書くと、時は明治の末年、秋の宵。場所は広島停車場前の旅館。登場人物は藤木理学博士、四十七、八歳。私、新聞記者、三十二歳。
 わたしは社用で九州へ出張する途中、この広島の支局に打合せをする事があって下車したのである。支局では大手町の旅館へ案内してくれたが、その本店には多数の軍人が泊り合せていたので、さらに停車場前の支店へ送り込まれた。どこの土地へ行っても、停車場前の旅館はとかくにざわざわして落着きのないものであるが、ここは旧大手前の姿をそのままに、昔ながらの大きい松並木が長く続いて、その松の青い影を前に見ながら、旅館や商家が軒をつらねているので、他の停車場前に見られないような暢《のび》やかな気分を感じさせるのが
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