という。おそらく何処へか行って、秘密にかの人形を彫刻していたのであろうと察せられます。そうして、誰にも覚《さと》られないように、その二つの人形を天井裏に忍ばせて置いたのでしょう。六畳の部屋は娘たちの居間です。彼はかねてそれを知っていて、その天井裏に不可解な人形を秘めて置いたのは、娘たちに対する一種の呪《のろ》いと認められます。職人たちの話を聴きますと、自分らの大工のあいだには、そんな奇怪な伝説はないといいます。してみると、彼が他国人であるとかいうのも、まんざら嘘でもないように思われます。彼は親方の家を立去った後、鹿児島へ帰った様子もなく、その消息は不明だそうです。あるいは自分の呪いを成就《じょうじゅ》させるために、どこかで自殺したのではないかという説もありますが、確かなことは判りません。」
「そうすると、その人形があった為に、S旅館の娘ふたりは俄かに淫蕩な女に変じたという訳ですね。」と、私はまだ幾分の疑いを抱きながら言った。「そこで、その娘たちはどうしました。」
「娘たちには隠して置こうとしたのですが、何分にも大勢が不思議がって騒ぎ立てるので、とうとう娘たちにも知れました。しかしその話
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