に生れ変った原因はどこにあると思います。」
こんな問題について第六感を働かせろというのは無理である。私はだまって微笑していると、博士はまた語りつづけた。
「判りませんか。わたしにも判らなかった。実は今でもはっきりと判らないのですが……。私はその後も旅館に三週間ほど滞在していました。そのあいだにもいろいろの事件がありますが、それを一々話していると、どうしても発売禁止の問題に触れますから、一足飛びに最後の事件に到着させましょう。
わたしは自分の仕事を終って、いよいよ四、五日中には東京へ引揚げよう。その途中、郷里へもちょっと立寄ろうなどと思って、そろそろ帰り支度をしていると、九月のはじめ、例の二百二十日の少し前でした。二日ふた晩もつづいた大風雨《おおあらし》……。一昨々年《さきおととし》の風雨もひどかったが、今度のは更にひどい。こんな大暴れは三十年振りだとかいうくらいで、町も近村もおびただしい被害でした。S旅館もかなりの損害で、庭木はみんな根こぎにされる、塀を吹き倒される、家根《やね》を吹きめくられるという始末。それでも、表の店の方は、建物が古いだけに破損が少ない。こういうときには昔の建
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