ているのであるから、この問題については、娘たちを医者に診察させるなどということには、おそらく同意しないであろうと、彼は言った。
 外聞を恐れるというのも一応無理ではないが、これはもう世間に知れ渡っている事実であるから、今さら秘密を守るよりも、進んで医師の診察を求めた方が優《ま》しであると思われたが、何分にも馴染みの浅いわたしとして、あまりに立ち入ってかれこれ云うわけにも行かないので、そのままに黙ってしまった。

     四

 藤木博士がここまで話して来た時に、夜の雨がまたおとずれて来た。博士はひと息ついて、わたしの顔を暫く眺めていた。
「どうです。これだけの話では格別おもしろくもないでしょう。S旅館の娘ふたりが淫蕩の事実を詳しくお話しすると、確かに一編の小説になると思うのですが……。いや、わたしが聴いただけのことでも、それを正直に書いたら発売禁止は請け合いです。いずれにしても、今までの話だけでは、単にその娘たちが放縦淫蕩の女であったというにとどまって、奇談とかいうほどの価値はないのですが、肝腎の話はこれからですよ。あなたは新聞記者で第六感が働くでしょうが、かの娘たちが俄かに淫蕩な女
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