ぬる次第で、思えば思うほど実に不思議な薄気味の悪い噺《はなし》だ。で、主人《あるじ》の驚愕《おどろき》は私よりも又一倍で、そう聞く上は最早一刻も猶予は出来ぬ、早速その窓を取毀《とりこわ》し、時宜《じき》に依《よ》れば其《そ》の室全体を取壊《とりくず》して了《しま》わねばならぬと、直《すぐ》に家令を呼んで其《そ》の趣《おもむき》を命令した。で、今頃は其《そ》の窓も容赦なく取毀《とりこわ》されて、継母《ままはは》の執念も其《そ》の憑《よ》る所を失ったであろうか。

 以上が画工エリックの物語で、同雑誌記者の附記する所によれば、彼《か》の画工の筆に成った恐しき婦人の絵姿は此《こ》のほど全く出来《しゅったい》したが、何さま一種云われぬ物凄い恐しい顔である、婦人の如き、其《そ》の図を一目見るや忽《たちま》ちに魘《おび》えて顫《ふる》えて、其後《そのご》一週間ほどは病床に倒れたという。で、普通の日本人の考慮《かんがえ》から云うと、殺した方の人が化けて出るというのは、些《ち》と理屈に合わぬように聞《きこ》えるが、何分にも其処《そこ》が怪談、万事不可思議の所が事実譚《じじつだん》の価値《ねうち》であろ
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