》ちて、敷石で頸《くび》の骨を強く撲《う》ったから堪《たま》りません、其《そ》のまま二言《にごん》といわず即死して了《しま》ったのです。サアそこですね、それに就いて種々《いろいろ》の風説がある。と云うのは、彼《か》の継母の奥様が背後《うしろ》から不意に其《そ》の若様を突落《つきおと》したに相違ないと云う評判で、一時は随分面倒でしたが、何をいうにも証拠のない事、とうとうそれなりに済んで了《しま》ったのです」と息も吐《つ》かずに饒舌《しゃべ》るのを、私も固唾《かたづ》を呑んで聞澄《ききすま》していたが、其《そ》の噺《はなし》の了《おわ》るを待兼《まちか》ねて、「併《しか》しそれが可怪《おかし》いじゃアないか、其《そ》の奥様は大層継子を可愛がったと云うのに、どうして其《そ》んな怖しい事を巧《たく》んだのだろう」相手は私の無経験を嘲《あざ》けるように冷笑《あざわら》って「サアそこが女の浅猿《あさまし》さで、表面《うわべ》は優しく見せかけても内心は如夜叉《にょやしゃ》、総領の継子を殺して我が実子《じっし》を相続人に据えようという怖しい巧《たく》みがあったに相違ないのです。それが一般の評判になった
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