な評判があるのだね」と、思わず身を乗出《のりだ》して相手の顔を覗き込むと、番人は顔を皺《しか》めて少しく低声《こごえ》になり、「これは内證《ないしょう》のお噺《はなし》ですがね、勿論《もちろん》百年も以前《まえ》の事ですから、誰も実地を見たという者もなく、ほんの当推量《あてずいりょう》に過ぎないのですが、昔からの伝説《いいつたえ》に依ると、当時《いま》の殿様の曾祖父様《ひいおじいさま》の時代の噺《はなし》で、その奥様が二歳《ふたつ》になる若様を残して御死亡《おなくなり》になりました、ソコで間もなく他《た》から後妻《にどぞい》をお貰いになって、その二度目の奥様のお腹《はら》にも男のお児様が出来たのです。けれども、其《そ》の奥様は大層お優しい方で、わが産《うみ》の児よりも継子《ままこ》の御総領の方を大層可愛がって、俗《よ》にいう継母《ままはは》根性などと云う事は少しもない、誠に気質《きだて》の美しい方でした。ところが、其《そ》の御総領の若様が五歳《いつつ》になった時、ある日アノ窓の側《そば》で遊んでいる中《うち》、どうした機会《はずみ》か其《そ》の窓の口から真逆《まっさか》さまに転げ墜《お
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