、これは道楽の余業で、ほんとうの道楽は一山百文式の我楽多玩具にあること勿論です。しかし時代の変遷で、その我楽多もだんだんに減って来るので困ります。大師《だいし》の達摩《だるま》、雑司《ぞうし》ヶ|谷《や》の薄《すすき》の木兎《みみずく》、亀戸《かめいど》の浮人形《うきにんぎょう》、柴又の括《くく》り猿《ざる》のたぐい、皆《みん》な私の見逃されないものです。買って来てどうするという訳《わけ》のものではありませんが、見るとどうも手が出したくなります。電車の中などでも薄の木兎などを担《かつ》いでいる人を見ると、何だか懐しくなって、声をかけてみたいように思うこともあります。
 こういう意味ですから、私の道楽はその後何年|経《た》っても進歩するはずはありません。根が研究的から出発しているのでありませんから、いわゆる「通」になるべきはずはありません。しかし我楽多玩具に対する私の趣味は、年を取るに随ってますます深くなるだろうと思っています。



底本:「岡本綺堂随筆集」岩波文庫、岩波書店
   2007(平成19)年10月16日第1刷発行
   2008(平成20)年5月23日第4刷発行
底本の親本:「新小説」
   1919(大正8)年1月号
初出:「新小説」
   1919(大正8)年1月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:川山隆
校正:noriko saito
2008年11月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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