いる。
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十郎の簑にや編まん青薄
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これは角田竹冷翁の句であるが、まったく初夏の青すすきには優しい風情がある。それが夏を過ぎ、秋に入ると、殆ど傍若無人ともいうべき勢いで生い拡がってゆく有様、これも一種の爽快を感ぜずにはいられない。殊《こと》に尾花がようやく開いて、朝風の前になびき、夕月の下にみだれている姿は、あらゆる草花のうちで他にたぐいなき眺めである。
すすきは夏も好し、秋もよいが、冬の霜を帯びた枯すすきも十分の画趣と詩趣をそなえている。枯れかかると直ぐに刈り取って風呂の下に投げ込むような徒《やから》はともに語るに足らない。しかも商売人の植木屋とて油断はならない。現に去年の冬の初めにも、池のほとりの枯すすきを危く刈り取られようとするのを発見して、私があわてて制止したことがある。彼らもこの愛すべき薄を無名の雑草並に取扱っているらしい。
市内の狭い庭園は薄を栽えるに適しないので、私は箱根や湯河原などから持ち来って移植したが、いずれも年々に痩せて行くばかりであった。目黒に移ってから、近所の山や草原や川端をあさって、野生の大きい幾株を引抜い
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