なよ[#「なよなよ」に傍点]したものは面白くない。桔梗《ききょう》や女郎花《おみなえし》のたぐいはあまり愛らしくない。私の最も愛するのは、へちま[#「へちま」に傍点]と百日草と薄《すすき》、それに次いでは日まわりと鶏頭《けいとう》である。
 こう列《なら》べたら、大抵の園芸家は大きな声で笑い出すであろう。岡本綺堂という奴はよくよくの素人で、とてもお話にはならないと相場を決められてしまうに相違ない。私もそれは万々承知しているが、心にもない嘘をつくわけには行かないから、正直に告白するのである。まあ、笑わないで聴いてもらいたい。
 先ず第一には糸瓜《へちま》である。私はむかしからへちま[#「へちま」に傍点]を面白いものとして眺めていたが、自分の庭に栽えるようになったのは十年以来のことで、震災以後、大久保百人町に仮住居《かりずまい》をしている当時、庭のあき地を利用して、唐蜀黍《とうもろこし》の畑を作り、へちま[#「へちま」に傍点]の棚を作った。その棚は私自身が書生を相手にこしらえたもので、素人の作った棚が無事に保つかといささか不安を感じていたところが、棚はその秋の強い風雨にも恙《つつが》なく、
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