火薬庫
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)着到《ちゃくとう》すると、

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|場《じょう》の
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 例の青蛙堂主人から再度の案内状が来た。それは四月の末で、わたしの庭の遅桜も散りはじめた頃である。定刻の午後六時までに小石川の青蛙堂へ着到《ちゃくとう》すると、今夜の顔ぶれはこの間の怪談会とはよほど変わっていた。例によって夜食の御馳走になって、それから下座敷の広間に案内されると、床の間には白い躑躅《つつじ》があっさりと生けてあるばかりで、かの三本足の蝦蟆《がま》将軍はどこへか影をひそめていた。紅茶一杯をすすり終った後に、主人は一座にむかって改めて挨拶した。
「先月第一回のお集まりを願いました節は、あいにくの雪でございましたが、今晩は幸いに晴天でまことに結構でございました。今晩お越しを願いました皆様のうちには、前回とおなじお方もあり、また違ったお顔も見えております。そこで、こう申上げると、わたくしは甚《はなは》だ移り気な、あきっぽい人間のように思召《おぼしめ》されるかも知れませんが、わたくしは例の怪談
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