に白状しろ。」
この訊問に対して、正直なお菊は脆くも恐れ入って了った。奉行の美濃守は眉を顰めた。これは容易ならざる大事件である。経験の浅い自分には迂闊に裁判を下し難いと思ったので、彼はその事情を打ち明けてこの一件を南の町奉行所へ移した。南の奉行は大岡越前守|忠相《ただすけ》で、享保二年以来、十年以上もここに勤続して名奉行の名誉《ほまれ》を頂いている人物であった。
「おそろしいことじゃ。これには死罪が大勢出来る。」と流石《さすが》の越前守も一件書類に眼を通して、悲しそうに嘆息をついた。
同じ月の十五日に白子屋の主人庄三郎、女房お常、養子又四郎、女房お熊、手代忠七、清兵衛、下女お久、下男彦八、長助、権介、伊介の十一人は奉行所へ呼び出されて、名奉行の吟味を受けた。お久が先ず白状した。お常とお熊と忠七もつづいて奉行の問に落ちた。お菊は勿論お常とお熊と忠七とお久の四人もすぐに入牢申し付けられた。この時代の法によると、この罪人の殆ど全部が死罪に処せらるべき運命を荷っていた。
入牢中にお熊も泣いた。お菊は声を立てて毎日泣き叫んで、牢屋役人を困らせた。秋も段々に末になって伝馬町の牢屋でも板間の下
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