鴛鴦鏡
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)流行詞《はやりことば》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)わっ[#「わっ」に傍点]と
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     一

 Y君は語る。

 これは明治の末年、わたしが東北のある小さい町の警察署に勤めていた時の出来事と御承知ください。一体それは探偵談というべきものか、怪談というべきものか、自分にもよく判らない。こんにちの流行詞《はやりことば》でいえば、あるいは怪奇探偵談とでもいうべき部類のものであるかも知れない。
 地方には今も往々見ることであるが、ここらも暦が新旧ともに行なわれていて、盆や正月の場合にも町方《まちかた》では新暦による、在方《ざいかた》では旧暦によるという風習になっているので、今この事件の起った正月の下旬も、在方では旧正月を眼の前に控えている忙がしい時であった。例年に比べると雪の少ない年ではあったが、それでも地面が白く凍っていることは言うまでもない。
 夜の十一時頃に、わたし達は町と村との境にある弁天の祠《やしろ》のそばを通った。当夜の非番で、村の或る家の俳句会に出席した帰
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