磯部の若葉
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)湿《ぬ》らして

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)作者|竹田出雲《たけだいずも》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]
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 今日もまた無数の小猫の毛を吹いたような細かい雨が、磯部の若葉を音もなしに湿《ぬ》らしている。家々の湯の烟《けむり》も低く迷っている。疲れた人のような五月の空は、時々に薄く眼をあいて夏らしい光を微《かす》かに洩《もら》すかと思うと、またすぐに睡《ね》むそうにどんより[#「どんより」に傍点]と暗くなる。※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《にわとり》が勇ましく歌っても、雀がやかましく囀《さえず》っても、上州の空は容易に夢から醒めそうもない。
「どうも困ったお天気でございます。」
 人の顔さえ見れば先《ま》ずこういうのが此頃《このごろ》の挨拶《あいさつ》になってしまった。廊下《ろうか》や風呂場で出逢う逗留の客も、
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