た。細かい雨は頭の上の若葉から漏れて、娘のそそけた鬢《びん》に白い雫《しずく》を宿しているのも何だか酷《むご》たらしい姿であった。私は少時《しばらく》立っていたが、娘は容易に動きそうもなかった。
堂と真向いの家はもう起きていた。家の軒下には桑籠が沢山に積まれて、若い女房が蚕棚《かいこだな》の前に襷掛《たすきが》けで働いていた。若い娘は何を祈っているのか知らない。若い人妻は生活に忙がしそうであった。
何処《どこ》かで蛙が鳴き出したかと思うと、雨はさあさあ[#「さあさあ」に傍点]と降って来た。娘はまだ一心に拝んでいた。女房は慌てて軒下の桑籠を片附け始めた。
底本:「岡本綺堂随筆集」岩波文庫、岩波書店
2007(平成19)年10月16日第1刷発行
2008(平成20)年5月23日第4刷発行
底本の親本:「五色筆」南人社
1917(大正6)年11月初版発行
初出:「木太刀」
1916(大正5)年7月号
入力:川山隆
校正:noriko saito
2008年11月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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