、身をすくめて、ただそのうしろ影を見送っていると、お兼ちゃんは手拭で顔をつつんで、やはりかの竹藪の横町の方へとぼとぼとあるいて行った。もちろんその跡を付けて行こうとする者もなかった。しかもそのうしろ姿が横町へ消えるのを見届けて、子供たちは一度にばらばらと駈け出した。今度は逃げるのでない、すぐに自分の親たちのところへ注進に行ったのであった。
 その注進を聞いて、町内の親たちが出て来た。経師屋のお父さんも出て来た。数珠屋からは勿論に駈け出して来た。大勢があとや先になって横町へ探しに行くと、お兼らしい娘のすがたは容易に見付からなかった。それでも竹藪をかき分けて根《こん》よく探しまわると、藪の出はずれの、やがて墓場に近いところに大きい椿が一本立っている。その枝に細紐をかけて、お兼らしい娘がくびれ死んでいるのを発見した。お兼ちゃんの着物をきていたので、子供たちは一途《いちず》にお兼ちゃんと思い込んだのであるが、それはかの八百留の子守のお長であった。
 お兼の着物を剥ぎとって、それを自分の身につけて、お長はこの十日あまりを何処で過したか判らない。そうして、あたかもお兼に導かれたように、この藪の中へ
前へ 次へ
全31ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング