んはそばから勧めた。
「じゃあ、行って来ようか。」
お父さんに連れられて、おなおさんは数珠屋の店へ出て行った。曇った宵はこの時いよいよ曇って今にも泣き出しそうな空の色がおなおさんの小さい胸をいよいよ暗くした。言いしれない不安と恐怖にとらわれて、おなおさんは泣きたくなった。数珠屋ではもう先に知らせて来たものがあったと見えて、夕方にお兼が姿をあらわしたことを知っていた。その竹藪はお寺の墓場につづいているので、お寺にも一応ことわって、大勢で今その藪のなかを探しているところだと言った。
「そうですか。じゃあ、わたしもお手伝いに行きましょう。」と、おなおさんのお父さんもすぐに横町の方へ行った。
横町の角を曲ろうとするときに、お父さんはおなおさんを見返って言った。
「おまえなんぞは来るんじゃあねえ。早く帰れ。」
言いすててお父さんは横町へかけ込んでしまった。それでも怖いもの見たさに、おなおさんはそっと伸び上がってうかがうと、暗い大藪の中には提灯の火が七つ八つもみだれて見えた。とぎれとぎれに人の呼びあうような声もきこえた。恐ろしいような、悲しいような心持で、おなおさんは早々に自分の家へかけて帰
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