つ乗込む。われわれ十五六人は大きい自動車へ一緒に詰め込まれて、ほこりの多い町を通りぬけてゆく。案内者は自動車の真先に乗っていて、時々に起立して説明する。
ランスという町に就いて、私はなんの知識も有たない。今度の戦争で、一度は敵に占領されたのを、更に仏蘭西の軍隊が回復したということの外には、なにも知らない。したがって、その破壊以前のおもかげを忍ぶことは出来ないが、今見るところでは可なりに美しい繁華な市街であったらしい。それを先ず敵の砲撃で破壊された。味方も退却の際には必要に応じて破壊したに相違ない。そうして、一旦敵に占領された。それを取返そうとして、味方が再び砲撃した。敵が退却の際に又破壊した。こういう事情で、幾たびかの破壊を繰返されたランスの町は禍である。市街は殆ど全滅と云ってもよい。ただ僅かに大通りに面した一部分が疎らに生き残っているばかりで、その他の建物は片端から破壊されてしまった。大火事か大地震のあとでも恐らく斯うはなるまい、大火事ならば寧ろ綺麗に灰にしてしまうかも知れない。滅茶苦茶に叩き毀された無残の形骸をなまじいに留めているだけに痛々しい。無論砲火に焼かれた場所もあるに相違
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