は又思い出したように動きはじめる。こんな生鈍い汽車でよく戦争が出来たものだと云う人もある。なにか故障が出来たのだろうと弁護する人もある。戦争中にあまり激しく使われたので、汽車も疲れたのだろうと云う人もある。午前十一時までに目的地のランスに到着する筈の列車が二時間も延着して、午後一時を過ぎる頃にようようその停車場にゆき着いたので、待兼ねていた人々は一度にどやどやと降りてゆく。よく見ると、女は四五人、ほかはみな男ばかりで、いずれも他国の人達であろう、クックの案中者[#「案中者」はママ]二人はすべて英語を用いていた。
 大きい栗の下をくぐって停車場を出て、一町ほども白い土の上をたどってゆくと、レストランコスモスという新しい料理店のまえに出た。仮普請同様の新築で、裏手の方ではまだ職人が忙がしそうに働いている。一行はここの二階へ案内されて、思い思いにテーブルに着くと、すぐに午餐の皿を運んで来た。空腹のせいか、料理はまずくない。片端から胃の腑へ送り込んで、ミネラルウォーターを飲んでいると、自動車の用意が出来たと知らせてくる。又どやどやと二階を降ると、特別に註文したらしい人達は普通の自動車に二三人ず
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