りには雇人の口入屋《くちいれや》があった。どういうわけか、お玉さんの家とその口入屋とはひどく仲が悪くって、いつも喧嘩が絶えなかった。
わたしが引っ越して来た頃には、お玉さんのお父さんという人はもう生きていなかった。阿母《おっか》さんと兄の徳さんとお玉さんと、水入らずの三人暮らしであった。
阿母さんの名は知らないが、年の頃は五十ぐらいで、色の白い、痩形で背のたかい、若いときにはまず美《い》い女の部であったらしく思われる人であった。徳さんは廿四五で顔付きもからだの格好も阿母さんに生き写しであったが、男としては少し小柄の方であった。それに引きかえて妹のお玉さんは眼鼻立ちこそ兄さんに肖《に》ているが、むしろ兄さんよりも大柄の女で、平べったい顔と厚ぼったい肉とをもっていた。年は二十歳《はたち》ぐらいで、いつも銀杏がえしに髪を結って、うすく白粉をつけていた。
となりの口入屋ばかりでなく、近所の人はすべてお玉さん一家に対してあまり好い感情をもっていないらしかった。お玉さん親子の方でも努めて近所との付き合いを避けて、孤立の生活に甘んじているらしかった。阿母さんは非常に口やかましい人で、私たちの子
前へ
次へ
全29ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング