ゆず湯
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)柚《ゆず》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「纏」の「广」に代えて「厂」、250−10]
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一
本日ゆず湯というビラを見ながら、わたしは急に春に近づいたような気分になって、いつもの湯屋の格子をくぐると、出あいがしらに建具屋のおじいさんが濡れ手拭で額をふきながら出て来た。
「旦那、徳がとうとう死にましたよ。」
「徳さん……。左官屋の徳さんが。」
「ええ、けさ死んだそうで、今あの書生さんから聞きましたから、これからすぐに行ってやろうと思っているんです。なにしろ、別に親類というようなものも無いんですから、みんなが寄りあつまって何とか始末してやらなけりゃあなりますまいよ。運のわるい男でしてね。」
こんなことを言いながら、気の短いおじいさんは下駄を突っかけて、そそくさと出て行ってしまった。午後二時ごろの銭湯はひろびろと明かるかった。狭い庭には縁日で買って来たらしい大きい鉢の梅が、硝
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