えて「厂」、250−10]をきて、彼は行儀よくかしこまっていた。わたしから繕《つくろ》いの注文を一々聞いて、徳さんは丁寧に、はきはきと答えた。
「あんな人がなぜ近所と折合いが悪いんだろう。」
徳さんの帰ったあとで、家内の者はみんな不思議がっていた。あくる日は朝早くから仕事に来て、徳さんは一日黙って働いていた。その働き振りのいかにも親切なのが嬉しかった。今どきの職人にはめずらしいと家内の評判はますます好かった。多寡が壁の繕いであったから、仕事は三日ばかりで済んでしまった。徳さんは勘定を受け取りにくる時に、庭の青柿の枝をたくさんに切って来てくれて、
「渋くってとても食べられません、花活けへでもお※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]しください。」と言った。なるほど粒は大きいが渋くって食えなかった。わたしは床の間の花瓶に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]した。
「妹はこの頃どんな塩梅ですね。」と、そのとき私はふいと訊いてみた。
「お蔭さまでこの頃はだいぶ落ちついているようですが、あいつのこってすから何時あばれ出すか知れ
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