く承知して内へ招じ入れた。彼は炉の火を焚きそえて、湯を沸かして飲ませてくれた。
「この通りの山奥で、朝夕はずいぶん冷えます。それでもまだこの頃はよろしいが、十一月十二月には雪がなかなか深くなって、土地なれぬ人にはとても歩かれぬようになります。」
「雪はどのくらい積もります。」
「年によると、一|丈《じょう》も積もることがあります。」
「一丈……。」と、叔父もすこし驚かされた。まったく今頃だからいいが、冬にむかって迂濶《うかつ》にこんな山奥へ踏み込んだらば、飛んだ目に逢うところであったと、いよいよ自分の無謀を悔むような気になった。
「お前、ひもじゅうはござらぬか。」と、僧は言った。「なにしろ五穀の乏《とぼ》しい土地で、ここらでは麦を少しばかり食い、そのほかには蕎麦《そば》や木の実を食っておりますが、わたしの家には麦のたくわえはありませぬ。村の人に貰《もろ》うた蕎麦もあいにくに尽きてしまいました。木の実でよろしくば進ぜましょう。」
彼は木の実を盆に盛って出した。それは橡《とち》の実で、そのままで食ってはすこぶるにがいが、灰汁《あく》にしばらく漬けておいて、さらにそれを清水にさらして食うの
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