手に汗を握った。源兵衛の額にも脂汗が流れた。彼は目をとじ歯を食いしばって、一生懸命にぶら下がっているばかりで、何とも声を出すことも出来なかった。こうなっては、枝が折れるか、彼の力が尽きるか、自然の運命に任せるのほかはない。上からは無益《むやく》に藤蔓を投げてみたが、彼はそれに取りすがることも出来ないのであった。
 そのうちに枝は中途から折れた。残った枝の強くはねかえる勢いで、となりの枝も強く揺れて、髑髏はからからからから[#「からからからから」に傍点]と続けて高く笑った。源兵衛のすがたは谷底の靄にかくれて見えなくなった。上の四人は息を呑んで突っ立っていた。

 源兵衛の一家はこうして全く亡び尽くした。娘の死んだとき、女房の死んだとき、源兵衛はそれを鎌倉へ通知してやらなかったらしいが、こうして一家が全滅してしまった以上、無沙汰にして置くのはよろしくあるまいというので、村の人々から初めて鎌倉へ知らせてやると、せがれの源蔵は早々に戻って来た。
 源蔵も今は源光《げんこう》といって、立派な僧侶となっているのであった。棄恩入無為《きおんじゅむい》といいながら、源光はおのが身の修業にのみ魂を打込ん
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