して、何か心当りの事でもないか、その以前に邸内で変死した者でもあるかと吟味したが、何《いず》れも顔を見合せるばかりで返答《こたえ》がない。しかしその女が湿《ぬれ》しおたれて居ると云うのを見れば、或は水死した者ではあるまいか、とてもの事に池を探して見ろと隼人が云う。
何さま斯《こ》の邸には大きな池があって、水の淀んで碧黒い処《ところ》には水草が一面に漂っていて、夏になれば蛇や蛙|宮守《やもり》[#「宮守」はママ]の棲家となる、殊《こと》にこの池は中々底深いと聞くから、或はこの水中に何物か沈んでいるのではあるまいか、物は試しで一応その掻堀《かいぼり》をして見ろと云うことになって、下男や家来共はその用意に取かかる処《ところ》へ、この噂を聞いて奥から怖々《おずおず》出て来たのは、当年八十歳の女隠居で、当主隼人の祖母に当る人だ。見ると、手には珠数を爪繰って、口には何か念仏を唱えている。
この隠居が椽端《えんばた》近く歩み出て、今や掻堀を面白半分に騒ぎ立つ家来共を制して、もうもうそれには及びませぬ、縡《こと》の仔細は妾《わし》が能《よ》う知っていますと云うから、一同も不思議に思ってその顔を見つ
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