お住の霊
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)小生《わたくし》の父が、

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)丁度|満《まる》五年

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ルビの「おぼしめし」は底本では「そのおぼしめし」]
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 これは小生《わたくし》の父が、眼前《まのあたり》に見届けたとは申し兼《かね》るが、直接にその本人から聞取った一種の怪談で今はむかし文久の頃の事。その思召《おぼしめし》[#ルビの「おぼしめし」は底本では「そのおぼしめし」]で御覧を願う。その頃、麹町霞ヶ関に江原桂助という旗下(これは漢学に達して、後には御目附に出身した人)が住んでいた。その妹《いもご》は五年以前、飯田町に邸《やしき》を構えている同じ旗下で何某隼人(この家は今も残っているから、姓だけは憚る)という人の許《もと》へ縁付き、児まで儲けて睦じく暮らしていたが、ある日だしぬけに実家《さと》へ尋ねて来て、どうか離縁を申し込んでくれと云う。兄も驚いて、これが昨日今日の仲でも無し、縁でこそあれ五年越しも睦じく連添っていたものを、今更
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