ができました。あちこちに大きな瀬戸物の工場や製糸場ができました。そこらの畑や田はずんずん潰《つぶ》れて家がたちました。いつかすっかり町になってしまったのです。その中に虔十の林だけはどう云ふわけかそのまゝ残って居りました。その杉もやっと一丈ぐらゐ、子供らは毎日毎日集まりました。学校がすぐ近くに建ってゐましたから子供らはその林と林の南の芝原とをいよいよ自分らの運動場の続きと思ってしまひました。
虔十のお父さんももうかみがまっ白でした。まっ白な筈《はず》です。虔十が死んでから二十年近くなるではありませんか。
ある日昔のその村から出て今アメリカのある大学の教授になってゐる若い博士が十五年ぶりで故郷へ帰って来ました。
どこに昔の畑や森のおもかげがあったでせう。町の人たちも大ていは新らしく外から来た人たちでした。
それでもある日博士は小学校から頼まれてその講堂でみんなに向ふの国の話をしました。
お話がすんでから博士は校長さんたちと運動場に出てそれからあの虔十の林の方へ行きました。
すると若い紳士は愕《おど》ろいて何べんも眼鏡《めがね》を直してゐましたがたうとう半分ひとりごとのやうに云ひ
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