がついて行きました。
虔十もよろこんで杉のこっちにかくれながら口を大きくあいてはあはあ笑ひました。
それからはもう毎日毎日子供らが集まりました。
たゞ子供らの来ないのは雨の日でした。
その日はまっ白なやはらかな空からあめのさらさらと降る中で虔十がたゞ一人からだ中ずぶぬれになって林の外に立ってゐました。
「虔十さん。今日も林の立番だなす。」
簑《みの》を着て通りかゝる人が笑って云ひました。その杉には鳶《とび》色の実がなり立派な緑の枝さきからはすきとほったつめたい雨のしづくがポタリポタリと垂れました。虔十は口を大きくあけてはあはあ息をつきからだからは雨の中に湯気を立てながらいつまでもいつまでもそこに立ってゐるのでした。
ところがある霧のふかい朝でした。
虔十は萱場《かやば》で平二といきなり行き会ひました。
平二はまはりをよく見まはしてからまるで狼《おほかみ》のやうないやな顔をしてどなりました。
「虔十、貴さんどごの杉|伐《き》れ。」
「何《な》してな。」
「おらの畑ぁ日かげにならな。」
虔十《けんじふ》はだまって下を向きました。平二の畑が日かげになると云ったって杉の影がた
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