つたのだ。それで粟も盗んで来たのだ。はつはつは。」
そして岩手山は、またすましてそらを向きました。男はもうその辺に見えませんでした。
みんなはあつけにとられてがや/\家《うち》に帰つて見ましたら、粟はちやんと納屋に戻つてゐました。そこでみんなは、笑つて粟もちをこしらへて、四《よ》つの森に持つて行きました。
中でもぬすと森には、いちばんたくさん持つて行きました。その代り少し砂がはひつてゐたさうですが、それはどうも仕方なかつたことでせう。
さてそれから森もすつかりみんなの友だちでした。そして毎年《まいねん》、冬のはじめにはきつと粟餅を貰《もら》ひました。
しかしその粟餅も、時節がら、ずゐぶん小さくなつたが、これもどうも仕方がないと、黒坂森のまん中のまつくろな巨《おほ》きな巌《いは》がおしまひに云つてゐました。
底本:「宮沢賢治全集8」ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年1月28日第1刷発行
2004(平成16)年4月25日第20刷発行
初出:「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社
1924(大正13)年12月1日
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