。」
 北守将軍ソンバーユーは涙を垂れてお答へした。
「おことばまことに畏《かしこ》くて、何とお答へいたしていゝか、とみに言葉も出《い》でませぬ。とは云へいまや私は、生きた骨ともいふやうな、役に立たずでございます。砂漠《さばく》の中に居ました間、どこから敵が見てゐるか、あなどられまいと考へて、いつでもりんと胸を張り、眼を見開いて居りましたのが、いま王様のお前に出て、おほめの詞《ことば》をいたゞきますと、俄《には》かに眼さへ見えぬやう。背骨も曲つてしまひます。何卒《なにとぞ》これでお暇を願ひ、郷里に帰りたうございます。」
「それでは誰《だれ》かおまへの代り、大将五人の名を挙げよ。」
 そこでバーユー将軍は、大将四人の名をあげた。そして残りの一人の代り、リン兄弟の三人を国のお医者におねがひした。王は早速許されたので、その場でバーユー将軍は、鎧《よろひ》もぬげば兜《かぶと》もぬいで、かさかさ薄い麻を着た。そしてじぶんの生れた村のス山《ざん》の麓《ふもと》へ帰つて行つて、粟《あは》をすこうし播《ま》いたりした。それから粟の間引きもやつた。けれどもそのうち将軍は、だんだんものを食はなくなつてせつ
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