が見えてきた。兵隊たちは心配さうにこつちの方を見てゐたのだが、思はず歓呼の声をあげ、みんな一緒に立ちあがる。そのときお宮の方からはさつきの使ひの軍師の長が一目散にかけて来た。
「あゝ、王様は、すつかりおわかりなりました。あなたのことをおききになつて、おん涙さへ浮べられ、お出《い》でをお待ちでございます。」
 そこへさつきの弟子たちが、薬をもつてやつてきた。兵隊たちはよろこんで、粉をふつてはばたばた扇ぐ。そこで九万の軍隊は、もう輪廓《りんくわく》もはつきりなつた。
 将軍は高く号令した。
「馬にまたがり、気をつけいつ。」
 みんなが馬にまたがれば、まもなくそこらはしんとして、たつた二疋の遅れた馬が、鼻をぶるつと鳴らしただけだ。
「前へ進めつ。」太鼓も銅鑼《どら》も鳴り出して、軍は粛々行進した。
 やがて九万の兵隊は、お宮の前の一里の庭に縦横《じゆうわう》ちやうど三百人、四角な陣をこしらへた。
 ソン将軍は馬を降り、しづかに壇をのぼつて行つて床に額をすりつけた。王はしづかに斯《か》ういつた。
「じつに永らくご苦労だつた。これからはもうこゝに居て、大将たちの大将として、なほ忠勤をはげんでくれ
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