をさがして来よう。何とか抜けられるかも知れない。曇ってさへ居なかったら見当だけつけてぐんぐん本当のみちの方へ草をこいで行けばいゝんだが。仕方ない。ますます変な所へ来てしまった。やっぱり駄目だ。さあ引っ返しだぞ、戻りだぞ。やあ、降って来た降って来た。マントのあるのは誰々だ。さあ馳《か》けるんだぜ。いゝか。そら。大きな岩だ。つまづくな。)

(ふん、あれがさっきの柳沢の杉だ。
 何だ沼森の坊主め。ケロリとして睡《ねむ》ってやがる。)
 所々雲が切れて星が新らしく瞬く。
(ははあ。こゝだ。こゝで間違ったんだ。仕方ない。まあ行って火をたかう。)
 山だけまだ雲をかぶってゐる。
(おい。上等のお菓子だぜ。一つづつ分けるぞ。もうぢきだ。もう十五分。)しかし宿でも迷惑だな。

(路を間違へて帰って来ました。火をたきますよ。みんなきものを乾かせ。辛いな。けむりが。)辛い。けむり。それにきものが乾かない。烟《けむり》がみんなそっちへばかり行く。ぱっと燃えろ。さあ、ぱっと燃えろ。
(ああ、もう明るくなって来た。空が明るくなって来た。きれいだなあ。おい。)
 深い鋼青から柔らかな桔梗《ききゃう》、それからう
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