の火の粉は赤く散り、大熊星《おほぐまぼし》は見えません。
(ここのところでよく間違ふぞ。左を行くと山みちなんだ。鳥居があるので悪くするとそっちへ行くぜ。)みちは俄《にはか》に細くなったり何本にもわかれたり。黒い火山礫《くわざんれき》と草のしづく。
(いつもなら火を見て馬がかけて来るんだが今はもうみんな居ないんだ。すっかり曇ったな。)
 みちが消えたり又ひょいと出て来て何本にも岐《わか》れたり。

 柏《かしは》の枯れ葉がざらざら鳴ってゐる。
 なんだか路《みち》が少しをかしい。もう大分来てゐるのだが。
(向ふにどてがあるかどうか一寸《ちょっと》見て来よう。おい。ついて来るな。そこに居ろ。何だ。たいまつが消えたな。そこに居ろよ。はなれるな。ずゐぶん丈の高い草だ。胸きりある。)

(どてが無いよ。この路に沿ってゐる筈《はず》なんだ。事によったら間違ったぞ。もう少し行って見よう。けれども駄目《だめ》だ。やっぱり駄目だ。こんな変な坂路がなかった筈だ。少し北側へ廻ったのかな。すっかり曇ったし、困ったな。仕方ない夜明け迄《まで》に一ぺん宿へ引っ返し日が出てから改めて出掛けよう。)
(けれども一寸路
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