リオンがもう高くのぼってゐる。
(どうだ。たいまつは立派だらう。松の木に映るとすごいだらう。そして、そうら、裾野と山が開けたぞ。はてな、山のてっぺんが何だか白光するやうだ。何か非常にもの凄《すご》い。雲かもしれない。おい、たいまつを一寸《ちょっと》うしろへかくして見ろ。ホウ、雪だ、雪だ。雪だよ。雪が降ったのだ。やっぱりさっき雨が来たのだ。夢で見たのだ。雪だよ。)
空気はいまはすきとほり小さな鋭いかけらでできてゐる。その小さな小さなかけらが互にひどくぶっつかり合ひ、この燐光《りんくゎう》をつくるのだ。
オリオンその他の星座が送るほのあかり、中にすっくと雪をいたゞく山王《せんわう》が立ち黒い大地をひきゐながら今|涯《はて》もない空間を静にめぐり過ぎるのだ。さあみんな、祈るのだぞ、まっすぐに立て。
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(無上|甚深微妙《じんじんみめう》法 百千万|劫《ごふ》難遭遇
我今見聞得受持 願解|如来《にょらい》第一義)
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力いっぱい声かぎり、夜風はいのりを運び去りはるかにはるかにオホツクの黒い波間を越えて行く。草はもうみんな枯れたらしい。たいまつ
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