かな。あしたは天気は大丈夫だな。四つまでできるかな。」
「えゝ。」
「やっ、お邪魔しぁんした。まだ入って居《を》ります。置いて行きます。」
「おい、持って行け、持って行け、もう飲まんぞ。」
さうだ。帝室林野局の人たちだ。
たしかにこれは夢のはじめの方の青ぐろい空だ。山の中腹から裾野《すその》に低く雲が垂れ、その星明りの雲の原の上でごろごろと雷が鳴ってゐる。実に静にうなってゐる。夢の中の雷がごろごろごろごろうなってゐる。雲の下の柏《かしは》の木立に時々冷たい雨の灌《そそ》ぐのが手に取るやうだ。それでもやはり夢らしい。
何時かな。もう二時半だ。少しおくれた。いや、丁度いゝ。寒い。
(おい。もう二時半だ。二時半だ。行かう行かう。)寒くてガタガタする。みんなうらうら仕度をしてゐる。ゆふべのつゞきの灰色ズックの鞄《かばん》、ラムプの光は青い孔雀《くじゃく》の羽。
(いゝか。火がついたか。さあ出よう。たいまつはまん中だぞ。寒いな。)
空の鋼は奇麗に拭《ぬぐ》はれ気圏の淵《ふち》は青黝《あをくろ》ぐろと澄みわたり一つの微塵《みぢん》も置いてない。
いっぱいの星がべつべつに瞬いてゐる。オ
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