いでもやっぱり醸《わ》きます。」
「さうかい。砂糖を入れたら罰金だらう。おい、吉田、吉田。吉田を呼んで来て呉《く》れ、あ、いゝよ、来た来た。おい吉田。葡萄酒ださうだ。飲まないか。」
「さうですか。おや。熱くしてあるのか。どれ、おい沢山だ。渋いな。」
ねむけのもやがまた光る。
「あしたは騎兵が実弾射撃に来るさうぢゃないか。どこへ射《う》つのだらう。」
「笹森《ささもり》山、地図を拝見、これです。なあに私等の方は危くありませんよ。」
「しかし弾丸《たま》が外《そ》れたら困るぜ。」
「なあに、旦那さん。そんたに来ません。そぃつさ騎兵だん[#「ん」は小書き]すぢゃぃ。」
ふん、あいつはあの首に鬱金《うこん》を巻きつけた旭川《あさひかは》の兵隊上りだな、騎兵だから射的はまづい、それだから大丈夫|外《そ》れ弾丸は来ない、といふのは変な理窟《りくつ》だ。けれどもしんとしてゐる。みんな少し酔って感心したんだな。
「今日は君は楽だったらう。」
「えゝ、しかし昨日は鞍掛《くらかけ》でまるで一面の篠笹《しのざさ》、とても這《は》ふもよぢるもできませんでした。」
「いや、おれの方だってさうだ。さあ寝る
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